11月5日(火) ~ 11月26日(火)
上記の期間、休業いたします。
『そして、父になる』
観てきました。
観たのはだいぶ前だったのですが、ネットがつながらない状態だったので感想が今になってしまいました。
素晴らしい映画でした。
本当に。
しかし、僕は映画館で観ている間じゅう、ずっと【しっくり】きませんでした。
違和感というか、疑問というか、それがあって観覧中ずっと映画に入り込めない自分がいました。
映画のあらすじはこういうものです。(結末までは書きませんのでご安心を)
仕事に情熱を燃やすエリートサラリーマンの父親(福山)は6歳まで育てた一人息子が実は産婦人科で取り違えられた他人の子供だったことを知る。
病院側は、『こういった事件の場合(あってはならないことですが)、ほぼ全員が本来の親のもとに戻しています。』と言い。
夫婦は『それまでの時間』を取るか『血』を取るかの選択を迫られる。
福山演じる夫婦は、悩み、考えた結果、ある決断をする。
取り違えられたもう一方の家族がある。(福山の実の子供を育てていた家族。)
リリー・フランキーが演じるもう一人の父親。
この父は、まぁ言ってしまえば、エリートの福山から見れば、落ちこぼれというか、だらしないダメな男、ダメな父親。
しかし、付き合っていくうちに父親としては、リリー・フランキーの方がずっと立派であることに福山は気付かされる。
そして、福山がした決断とその結末とは。
というような内容です。
予告を見ただけで、涙が出そうになっていたこの映画。(たぶん『風立ちぬ』の予告で流れたと思います。)
実際に始まったら、僕はずっとあることに引っかかってしまい、映画に入り込むことができませんでした。
何に、引っかかっていたのか?
それは、福山演じる父親が、『それまでの時間』をとるか『血』をとるかで悩んでいることにです。
僕は、真木よう子演じるリリー・フランキーの妻が『このままじゃダメなのかなぁ』とつぶやくそのセリフのように、(このヤンキーママ、終始芯の通ったことをつぶやきます。)僕も『このままでいいじゃないか』という思いがずっとあって、それまで育てた子供を交換するのかしないのかと悩む福山にずっと違和感がありました。
僕なら『それまでの時間』を取るということです。
これは後日見た是枝監督が出ていたTV番組でも、是枝監督の妻は「今度このような映画を考えているんだけど、もしこのようなことが起こったらどうする?」との質問に、『ぜったいに交換しない』と答えたそうです。
僕もそう思います。
ただ現実はそう簡単ではないようです。
そのTV番組で是枝監督が言っていたのですが、これまであった取り違え事件のほぼ全員が『血』を選んでいたそうです。
これには、正直驚きました。
そのときの時代背景や、取り違えに気付いたときの子供の年齢にもよるのかもしれませんが、ちょっと驚きです。
もちろん、これは「映画」ですから実際に当事者になってしまったら、終わることのない懊悩の日々で心の傷は消えることはないのでしょう。
今回、僕はこうも思いました。
映画やドラマというものは他人事だからこそ、入り込めるのかもしれないと。
僕もいま「父親」真っ只中です。
子供はまだ一歳ですが、子供はもちろん妻や周りに対しても自分が「父親」であることに悩んだり、不安になったりの日々です。
悩みや不安もあるけれど簡単には譲れない「父親」という立場です。
だから、映画とはいえ福山演じる「父親」に感情移入出来なかったのかもしれません。
これがもう少し、僕も父親として時間が経ちある程度余裕もできたのなら割り切って感情移入できたのかもしれません。
(あるいは、リリー・フランキーが主人公の話だったらもっと感動したかもしれませんね。)
何度も言いますが、映画としては素晴らしいと思います。
子供たちもいいし。
二人の子供たちが泣きわめかないというのも、(演出とはいえ)とてもいいです。
それによって、あるシーンのテント内でのある子供の『あの一言』にグッと感動します。
(僕はここから最後まで涙が止まりませんでした。)
最後に、この映画の原作と言ってもいい(実際、エンドロールで参考文献として紹介されています。)『ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年』という本があります。
これは、沖縄で昭和四十六年の八月に実際あった事件をまとめたものです。
そこで取り違えられた二人の「子供」はもちろん実在します。
取り違えられたAさん(女性)とBさん(女性)、は映画と同じように6歳のときに、今まで育った家族から新しい家族に交換されたそうです。
悲しい事件です。
二人(とその家族)の苦しみや傷は想像もできないですが、先日ある雑誌にこのような記事が出ていました。
その内容とは、Aさんは昨年入籍してその結婚式の時に、十四年前に結婚したものの式はしていないBさんと合同で結婚式を挙げたそうです。(二人の関係は続いていたのですね。)
『ねじれた絆』の著者 奥野氏は
『花嫁がバージンロードに現れたとき、涙が止まりませんでした。二人にとって最高の形ではないでしょうか。』と言います。
簡単には美談にはできませんが、感動しました。