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生うどんつちやブログ

鹿児島県鹿屋市にあるうどん屋です。

【早乙女哲哉】という天ぷら職人。プロフェッショナルから。

NHKプロフェッショナルという番組がありました。

残念ながら、最近終わったようですが、いい番組でしたね。

 

深夜に再放送があり、録画していたものをつい最近見たのですが、これがとてもいい内容でした。

あまりにも良かったので、ここに文章で起こしたいと思います。

(敬称略)

 

天ぷら職人『早乙女哲哉』(66)

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天ぷらに人生をささげた男

極上の味を引き出す職人技

驚異の天ぷら

香ばしさがほとばしる穴子

芯はほんのりレアの海老

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生よりも濃厚な味に生まれ変わった雲丹

 

 

早乙女は客の声にもニコリともしない。

 

『愛想なんかよりも先にうまい天ぷらつくるのが一番の愛想だと思ってる。それが俺の、オレ流だから』

 

と笑った。

 

 

天ぷらというシンプルな料理に新たなる可能性を生み出し続ける。

 

『オレはそこら辺の100軒200軒のなかに入りたいわけじゃないから、世界に一軒の店やりたいんだから。』

 

名だたる多くの料理人をも魅了する。

寿司職人 小野二郎曰く 『他(の天ぷら屋)には絶対行かない』

日本料理 山本征治曰く 『天ぷらってすごい世界なんだなって思います。マネできないです。絶対に』

 

 

天ぷらを揚げ続けて50年

 

4月のよく晴れた日。仕込みを終えた早乙女は開店時間前のあいた時間で店先の草むしりをしていた。

 

ナレーション「ふだんの早乙女はいたってのんきだ。開店時間がせまってもなかなか厨房に入ろうとしない。」

 

早乙女『何が一番好き?それりゃ、仕事かな? 何が一番嫌い?そりゃ仕事だよ。』と笑った。

 

厨房になかなか入らないことに

『そこまで気を使わないといけないから、とことん全部自分の持っているもの出さなくちゃいけないから。おっくなんだよね。始まるまでは。』

 

この日、厨房の入ったのは、開店5分前

 

 

早乙女の「さぁ、やるか。」の声とともに、真っ白な前掛けをしめて、両手に持った4個の玉子をなれた手つきで容器に割り入れ、天ぷら生地を作る。

 

早乙女の天ぷらはおまかせのコースのみ。

天ぷらはシンプルな料理で、衣につけて、油であげるだけで、素材の味を引き出さなければならない。

その料理のキモは、火の通し方。どのタイミングで揚げるのか、全て一発勝負。

 

 

***がけっぷち、こそ旨い。***

 

 

一品目は海老。静岡の天然。

一般的には180度で40秒前後あげる。しかし、早乙女は強火で攻める。わずか23秒であげた。

これ以上、火を通すと甘みが損なわれるギリギリのことろで揚げる。

 

続いて、きす。

ここでも早乙女はギリギリを攻める。

揚げ始めて2分。火は十分に通っているにも関わらず、なかなかあげない。

きすは水っぽく、淡白な魚。長く揚げることで余分な水分を飛ばす。

焦げる寸前まで、揚げて風味を凝縮させる。

 

早乙女『食った瞬間にね。有無を言わせないギリギリのことろでしか仕事しないから。崖のギリギリって、ぞくっとするじゃん?食った瞬間にね。あれ?こうなるの?これは?っていうものをね。』と仕込みをしながら話す早乙女。

 

ナレーション「緻密な計算に基づき、素材に眠る風味を極限にまで引き出す早乙女の天ぷら。50年ひたすら研鑽を重ね独創的な天ぷらを作り出してきた。

雲丹の大葉巻き。

揚げることにより臭みを抜き、生よりもはるかに濃厚な味を生み出した。早乙女は長い歴史をもつ天ぷらに革命を起こしたとさえ言われている。」

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料理評論家 山本益博「昔からいうと、生で食べるのが一番いい。その次は、焼いて、その後は煮て。天ぷらなんて痛んだ魚を仕方なく油で揚げるなんて思われていたんですが、とんでもないです。最高の食材を生以上のものに仕立てるっていうことを初めて教えてくれたのは早乙女さんですね。」

 

めごち、貝柱のかき揚げ、白魚、雲丹などが続いて、コースの最後は穴子。

 

ナレーション「早乙女の技の全てが注ぎ込まれる食材だ。穴子はぬるぬるした表面に特有の青臭さがあり、それを嫌う人も少なくない。しかし早乙女はその臭みを香ばしさに変えるという。」

 

目打ちをして、手際よくひらかれた穴子は一本まるまる揚げられる。その際、皮の部分の衣は容器のふちでそぎ落とし薄くして油の中へ。2分ちかくかけて身をふっくらとさせて、最後は220度まで火力をあげて、薄くした皮を焼くように香ばしさを引き出す。何度も油の中でひっくり返しギリギリまで揚げる。

皮はパリパリ、身はふっくらとした極限まで素材の味を引き出した穴子。

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ナレーション「15歳で修業をはじめた。50年。その歩みを支えた思いがある。」

 

それは。

 

***深く、深く***

 

早乙女『衣くっつけて油の中へ放り込んだらもうおしまいだもんな。その中で何ができるかっていうことだから、目指すものは深く、深く。もう、突っ込むしかないのよね。深く。それこそ井戸よりも深く掘ってね。その深さはあんたらには見つからないんだよ。という仕事がしたい。』

 

22時過ぎ。

 

早乙女『今日は、もう終わり』と笑い。お客さんを見送る。

 

 

週一度の休日。

 

ある店を訪れる早乙女。

それは、寿司の神様と言われる小野二郎氏(86)

30年通うこの店、食べることだけが目的ではないという。

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早乙女『結局、あのすしを握っている姿勢。自分の持っているものを全部吐き出して作るぞみたいな、やっぱし、それをいつも見ているんだよ。オレも気抜かないように。』

 

ナレーション「職人の世界は、ともすれば日々同じことの繰り返しに陥りがちだ。ましてや、そのシンプルさにおいて、完成された料理といわれる天ぷらにおいてはなおさらだ。限られた作業の一つ一つを突き詰め、深めていく。それが早乙女の戦いだ。』

 

客との真剣勝負が己を進化させると早乙女は言う。

 

ある日、小野二郎が代わって食べに来た。

旨い、と満足して帰った小野だったが、

その日の閉店後、早乙女は言う

『人間だからポカの連続だわな。』(取材者「そうなんですか?」)『そうだよ。』(海老の衣をつけるタイミングが少し早かったと言う。)

 

早乙女『130歳まで自分は追っかけるつもりでいるの。60で辞めようと思ったら、そこで自分に線を引くことだから、それでおしまいなのよ。(穴を)埋めようという気も起きなくなるの。現実には生きるかどうか分かんないよ、俺は生きるといい続けることは、それを埋めつづけるということよ。』

 

 

***若き日***

 

ナレーション(ナレーターが女優に代わって)「若き日の早乙女さん。人前に立つことが苦痛で仕方なかった。」

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早乙女『足なんて、ガタガタ震えるってもんじゃない。ワンナ、ワンナ、ワンナって震えるよ。もうね、何?足ってこんなに震えるの?っていうくらい震える。』

 

ナレーション「早乙女さんの半生。それは内なる弱さとの闘いだった。」

 

『俺は日本一弱い』

 

ナレーション

「早乙女さんは、終戦の翌年、栃木県藤岡に生まれた、気の小さい少年だった。

15歳のとき寿司職人になりたいと、父のつてを頼って上京。

しかし、実際に連れて行かれたのは、知らない間に話が付けられていた上野の天ぷら屋だった。

気の弱い早乙女さんは何も言い出せず、修業を始めた。

修業を重ね、揚場に抜擢される。

しかし、そこからが早乙女さんの苦悩の始まりだった。

お客さんの前で失敗するのが怖くて体が震える。

それでも、震えを押し殺して修業に励んだ。

あるとき、穴子の揚げ方を工夫してみた。

焦げるぎりぎりまで揚げると、臭みが消え、香ばしさが生まれた。

しかし、それを食べた客はにべもなく言った。

「若造がへんなことするな」

味にはぜったいの自信があった。それでも言い返せない自分が悔しかった。

日に日に揚場に立つのが辛くなった。

なんとか人の視線に慣れようと休みのたびに駅の改札に立ち続けた。

 

早乙女『誰かを待ってるわけじゃねぇけど、人が上がってくるのを、人の顔をずっ~と。何十万人。半分くらいノイローゼかな?誰にもそうは思われないよ。自分の中ではね。こういうのをノイローゼって言うんじゃないかなと思ってたから』

 

それでも、どんな手を使っても、気持ちの弱さは克服できない。

22歳のある日。

突然、客の前で汗が噴出し、トイレに駆け込んだ。いつまでたっても汗が止まらない。情けなさと惨めさのなかで思い知らされた。

『おれはとてつもなく弱い開き直るしかないと思った。』

 

早乙女『そんなことやっても、こりゃどうしようもわと思って、何が起こってもいいわ。俺は俺だから。って、そこいらへんから、自分を逃がさない。』

 

早乙女さんは黙々と仕事に励んだ。

技術を磨いて、有無を言わさない最高の天ぷらを作ろう。

数をこなすと決め、多い日は一日300人分の天ぷらを揚げた。

4年がすぎた頃、あることに気付いた。

自分の弱さは悪いことばかりではない。失敗を怖れるからこそ、誰にも気付かないところまで気を行き渡らせることができる。客のちょっとした反応も気付くことができる。

この道で生きる覚悟がようやく定まってきた。

 

そして、29歳で独立。自分の天ぷらで勝負に出た。

半年で人気に火がついた。あれから35年。早乙女さんは今ではこう思う

 

『自分の弱さが、今の自分を作ってくれた。』

 

早乙女『日本中で、俺よりも気が小さいのがいたら連れてきてみろ。絶対負けない。そのかわりね。俺は威張れるくらい気が小さいよ。その気の小ささがね。俺の天ぷらを揚げさせてるいるんだから。誰にも負けねぇ。その繊細さが、この天ぷらを作らせているんだから。誰にも負けねぇよ。いつも言い切ってますから』

 

 

ナレーション(男性に戻り)

「四月上旬。早乙女の店に異変が起こっていた。」

(取材者)「夜の予約はどんな感じですか?」

早乙女『夜は暇です。今日はつぶれそう。』と寂しく笑った。

 

ナレーション「その日、夜の客は一組だけだった。』

 

四年前のリーマンショック以降、多くの飲食店は客足は落ちている。満席が当たり前だった早乙女の店も、客の入りにバラつきが出るようになっていた。自らの店を構えて以来、初めての状況だった。

 

休日。

 

30年来の付き合いがある友人を訪ねる。

銀座でフランス料理の店を構えるシェフ大渕康文(58)さん。

正統派フレンチの代表格として、本場からも認められる大渕さん。それでも、客の入りはかんばしくないという。

大渕の店で二人で話す。

 

早乙女『誰にも見えないものを一生懸命やると、お客さんが来ない。ははは。』

と寂しそうに笑う。

大渕『ちょっと、なんかつらい。もやもやする。つらいところですね。』

 

ナレーション「ただ、美味しいものを作れば客が集まる。そんな簡単な時代ではないことは早乙女にも分かっている。その時々の、流行、気分に左右されるのは料理人の宿命。しかし、譲れない思いがある。」

 

早乙女『本流を、やっぱし、しつづける。がらっと目先は変わらないけども、いつの時代でも同じもの、とことん追及していく。目先を変えて逃げるってことは絶対にしないぞ。ぶつかっても、ぶつかっても、跳ね返されても、また、そこ。同じところしか狙わない。』

 

4月半ば。

おばあさんに天ぷらを食べさせたいという家族連れがやってきた。

おばあさんは歯が弱いのか、海老が噛み辛そうだった。

そこで、早乙女はアオリイカを一ミリの細さに刻んで、天ぷらにした。

おばあさんは喜んで、美味しいね。といって食べた。

 

翌週、思いがけないことが起きた。

フレンチの大渕に会いに行こうと思って、電話をかけるが、出ない。店も誰も出ない。

とりあえず、店に行こうと銀座を歩いていると、大渕さんの店のスタッフに行き合った。

彼はフライパンや包丁などを両手に抱えていた。

そのスタッフが言うには、店は潰れました。と、、、。

 

しばらく、言葉が出ない早乙女。

『いや、、、なんて、、、(沈黙)時代だね。なんでこんな時代になるのかと、仕事は出来てさ、銀座のど真ん中で、それでも(客が)来ない。料理なんかも日本人には本当ぴったり合うよ。あれでダメなんだかね。、、、、もう、しょうがない。パチンコ屋行こうか!わはは。もうおしまいにしよう。』

と笑って歩いていった。

 

ナレーション「時代の大きなうねりを、天ぷら一つで乗り越えていけるか、、、一つの思いをかみしめていた。」

 

早乙女『やっぱし、絶対に負けないぞっていうのがね。吹いたら吹っ飛ぶようなのが男なんだから、だけども、それをね、いかに自分が強くありたいっていうのに頑張るかっていうのが男なんだから』

 

五月半ば

 

早乙女を大渕があいさつに訪れた。

席につかせた早乙女は、黙々と天ぷらを揚げ始めた。

いくつか揚げた後、突然アオリイカを取り出した。

そして、あのおばあさんに出したように、細く刻んで天ぷらにした。

二人は多くを語らず、一人は天ぷらを揚げ、一人は黙ってそれを食べた。

 

伝えたい想いがあった。

 

**まだ終わりじゃない。**

 

早乙女『大渕君、まだ終わりじゃないんだから、送り出す。どこに行っても自分のカラー、ただ、目先だけを変えるんじゃなくて、自分のスタイルはきっちり守っていってほしいなって。』

 

大渕『だんなの持っているものが、なんかピカピカなんですよ。料理人の何かをしょってますよね。全部ね。うわ、俺もかっこ悪いことできないなって思いますよ。本当に。』

 

早乙女『大渕君、送り出すにはふさわしい天ぷら揚げたなっていうのはあるよ。大渕君にはまぶしかったかな。ってそれぐらいの仕事をちゃんとしようとしたよ。俺みても、(今日の天ぷらは)ちゃんと光ってるなと思ったもん』

 

まだまだ、終わりじゃない。

早乙女はまっすぐに道を行く。

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プロフェッショナルとは?

早乙女『旨いね。って言われたらね。そうやって作りました。って言うのがプロだと思う。出来上がりも始めからわかってるし、出来上がったものも自分で分かる。自分の仕事がわかんないやつはプロフェッショナルじゃない。』

 

 

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